職人シェアオフィス「BASE」-職人の繋がりから、新しい仕事をつくる-(コーポ江戸屋敷115号室)

久留米市江戸屋敷「コーポ江戸屋敷」の一室に、さまざまな業種の職人たちが集まる場、職人シェアオフィス「BASE」があります。
ここに集うのは、なんと11業界(大工・電気・造園・設計・デザイン・内装・設備・サッシ・塗装・鉄工・盆栽)に及ぶ、とてもフレンドリーで、あったかい職人たち。

通常、異業種の職人同士が交流することはほとんどないと言われる職人業界において、なぜこのような拠点が生まれ、職人たちの繋がりが広がっているのでしょうか。そして、その正体とは?
「BASE」のみなさんにお話を伺いました。


インタビュー当日に集まってくれた職人たち。BASEは募集中の#funker room の一つ下の階にあります。(左下より半時計回りに)左村さん・電気/半田満さん・設計/佐土原さん・内装/田中さん・デザイナー/亀崎さん・造園/今村さん・大工/半田啓祐さん・不動産

職人業界が抱える課題を、職人自らが解決する場「BASE」

ここに集う職人たちは、コーポ江戸屋敷での工事の仕事や、各職人が窓口となり取ってきた仕事に対して、専門的知見からアイディアを出し合いながら共同で仕事を進める取り組みをしています。

「BASE」が目指しているのは、
職人業界の課題である担い手不足の解消、
職人が新しい働き方を生み出すことができるような、職人同士の繋がりを生むこと。
月に一度の「職人会議」では、業界課題の担い手不足にアプローチする企画の実践をしたり、メンバー自身が将来どんな職人になるべきか対話を深めたりしています。

「BASEに来る職人たちは、従来イメージされる職人の仕事 “設計図通りに工事する仕事” とは違う、自分たちが直接お客さんに提案し形にしていく “元請けの仕事” を増やし、仕事の質を変えていきたいと考えています」(亀崎さん)

メンバーにはそれぞれ自分の会社があり、本業があります。自分の本業をしっかりこなしつつ、BASEではメンバーの誰かが受けた仕事にも取り組む。「組合」のようなイメージです。

当初は4組の職人からスタートし、3年が経ち12組に増え、確実にネットワークが広がっている「BASE」。
どのようにして生まれたのでしょうか?

カレッジで生まれた企画をカタチに-「BASE」の誕生-

初期メンバーは、亀崎さん(造園)、半田兄弟(設計/不動産)、左村さん(電気)、今村さん(大工)。もともと別の現場を通じて知り合った4組でした。

スペースRデザインと協働でコーポ江戸屋敷の管理を行っている半田兄弟は、造園業を営む亀崎さんが江戸屋敷出身であることを知り、亀崎さんにコーポ江戸屋敷の外構計画を相談していました。
ちょうどその頃、コーポ江戸屋敷で「コミュニティデザインカレッジ」(建物の敷地や環境を活かしたコミュニティデザインの考え方を学ぶ勉強会)が開催されることに。半田さんは、せっかく外構に関わってもらうなら、全体計画から一緒に関わってもらった方がいいと考え亀崎さんにカレッジ参加を打診。そして繋がりのあった同世代、4組の職人がカレッジに参加することになりました。

そのカレッジでは移住について考えるワークがあり、この職人チームから「職人移住計画」という企画が生まれます。
「職人は手に職があるので、移住しても移住先での仕事が成り立つ。職人の強みを活かせるなと。カレッジでこの企画を発表したところ好評で、自分たちで実践してみようか、ということになりました」(半田満さん)

こうして、職人たちによる新しい場づくりが始まりました。

コミュニティデザインカレッジでの発表の様子(2017年2月)

他業種の職人たちが、フラットな関係性でつくる場

「まず、使い方からみんなで話し合いました。職人のためのオフィスをつくろうという流れの中で、みんな自分の会社があるので、そもそも各自オフィスはある。自分たちに新たな場は必要なのか、というところから改めて考えました」(半田満さん)

話し合いでは、職人の担い手不足や、他業種の職人たちの集まれる場がないことが課題として挙がり、コーポ江戸屋敷の一室で「職人みんなが集まれる場」をつくることに。

「行けば仲間に会える、そんな場所が欲しいと思っていました。ドラクエの『ルイーダの酒場』みたいなイメージ。いろんな職人がそこにいて、必要なときにチームをつくる場です」(左村さん)

すでにある設計図面の通りに職人が施工を行う流れではなく、職人がフラットな関係性の中で、企画から施工まで全員の手で行いました。
企画を基に今村さんが図面を引き、それを受けて「室内と屋外をつなげたい」と考えた亀崎さんが外構計画を検討、そこから左村さんが照明計画を実施。

「全体の組み立てを全員で行うことで、より自分たち職人の知識や発想が活かせる形になると思いました。」(亀崎さん)

実は、BASEで使われいている素材は全て下地材(=ベース)。ただ、一見下地とは気づかないほどデザイン性に優れており、ここにも職人の技術と想いが詰まっています。
「今は下地なので、新しいメンバーが来たときにその人のデザインを足していけるようにと思っています」(左村さん)


一人ひとりの仕事の“円”が重なることで、大きな“円”になっていく

BASEには、毎日誰かが顔を出しています。月一回の職人会議のほかは、それぞれがデスクワークやお客さんとの打合せの場として使うことが多いそう。

「行けば誰かに会えるところ。刺激になります」(デザイナーの田中さん)

職人会議では、各メンバーの近況報告、これからやりたい工事やプロジェクトの話し合いをしています。一人ひとりの領域だけではなく、BASEメンバー全員の視点が入ることで、自分の本業への新たな切り口、見え方に繋がるといいます。


職人会議の様子

「会社から独立するきっかけになりました。自分で生み出す仕事の量が増えましたね。」(左村さん)
「お客さんに質問されたとき、分野外のことでも相談できる相手ができました。BASEがハブとなって、いろんな窓口ができていると思います」(内装職人の佐土原さん)

他業種の職人との繋がりを持つことで、お客さんに提案できることの幅が広がったそうです。

「それぞれが、自分の仕事の円(範囲)を持っているとしたら、メンバーが集合することでその円が少しずつ重なり、大きくなっていくイメージ。一人ひとりが自発的に動ける環境をつくっていきたいと思っています」(亀崎さん)

現在は、知り合った職人に声をかけ、興味がある人には月一回の職人会議に参加してもらっています。そこでBASEの活動スタンスが自分に合っているなと思った人が、BASEのメンバーになっているそうです。
そうして3年で12組にまで輪が広がりました。
あくまでも口コミで職人の輪を広げて、まずはゆっくり、じっくり。
自分たちの本業をおろそかにせず、BASEでは自分たちの技術と想いに向き合い、新しい仕事を生み出していく。
その道を極める職人ならではの繋がり方です。

これからの職人の姿

現在BASEでは、自社の若手職人の育成プログラムを実践しています。塗装職人の岩橋さんが会議で「自社の職人育成をしていきたい」と発信。それならみんなでやってみよう!ということに。

「職人は高齢化が進んでおり、自分たちの世代が職人の担い手をつくっていかなければと思っています。プログラムは自分たちが講師になる。仕事に対する考え方や心構えがメイン。なにより自分の仕事を好きになってもらうことが一番です。」(亀崎さん)

また、自分たちがどういう人材になっていくべきなのか意見交換したり、新商品の施工実験をしたり、オリジナルの商品開発をしたり、さらに造園職人 亀崎さんの自宅新築工事に関わったりと、BASEではいろんな取り組みが進行中です。


会議で出た意見を田中さんがポストイットで見える化。このときのテーマは、自分たちがどうあるべきか。


地元産業のい草を壁紙として使う施工実験の様子。通常の壁紙と素材が異なるためはがれやすい。BASEで実験を行い、実際の現場で気付きを活かす。(内装職人の佐土原さん)


造園職人 亀崎さんの自宅をBASEで新築中。自分の専門以外の工事のことを知るために、大工だけでなく工事に関わる職人全員が建て方に参加。“これから職人みんなでつくっていく” という一体感も生まれた。また、今回の取り組みを今後BASEで受ける新築工事のモデルケースにできたらと考えている。

BASEのみなさんは、「人と向き合う職人」だと感じます。
技術や専門性を極めることと同時に、他業種の職人、お客さん、若手職人(従業員)と深く関わり、多様なものの見方を実践する。
これからの職人の姿なのだと思います。

コーポ江戸屋敷の職人シェアオフィスBASE。私たちスペースRデザインにとって心強い存在であり、何より住人さんにとっても安心できる存在です。
#funker room から新しい一歩を踏み出す人を、あたたかく迎えてくれるはず。
ぜひ、BASEの職人の人柄と仕事に触れてみてください。



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